サーニットについてQ&A

                     
PDNのサーニット特集のために亥辰舎さんからの質問に答えましたが、
                    多くは本に載せられなかったので ここに記載します。

              なお、わかりやすいように文章も付け加えました。特に「余談」部分は是非読んでください。
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Q1サーニット粘土を素材に制作を始められたのは、いつ頃でしょうか。そのきっかけは。また、制作方法・技術はどのようにして習得されましたか。

A:サーニットで人形を作り始めて約20年経ちました。

もともと彫刻家になりたかったのですが、20年前は働いていることもあって、その頃は家で紙粘土で人形をつくって、作りたい気分を紛らわしていました。。

きっかけは、約22年ほど前、来日していたラスベガス在住のプリンスパーソネーター(歌手のそっくりさんで人形のコレクター)と知り合う機会があって、たまたま彼が人形のコレクターとわかり私が創ったプリンスの人形をみせたところ、人形作家になることを勧められました。
数年たって彼からラスべガスにそっくり人形ミュージーアムがあるから売り込んでみたらと薦められ、当時話題のマイケルジャクソンのコンサートに行った時のパンフレットの写真があったので紙粘土でマイケル人形を創りそれを持ってラスベガスに飛びました。

ラスベガスそっくり人形ミュージーアムに初めて行ったところ、たまたまそこの館長がジョー・ジャクソン(マイケルの父)の知り合いで、数か月後に人形館のリニューアルオープニングと隣接するボクシングミュージーアムの合同オープニングレセプションで人形展を開催する事が決まっていて、ジョー・ジャクソンも招待しているので再度マイケルの人形とモハメッドアリ人形を持ってきて展示してほしいと要望され、1993年に展示会に作家として招待され、再度訪米しました。

そのそっくり人形展示会場でサーニット粘土でできた人形をはじめて観たのです。
その肌の透明感やリアルさは今までに見たことがなく感銘を受けどうしても創り方を習いたいと思いました。
また展示会で知り合ったアメリカ人の作家さんたちからも「あなたは絶対サーニットを習うべき」と勧められたこともあり、日本に帰ってからとんぼ帰りで、ラスベガスで知りあったユタ州のサーニット作家の家に行き、3週間滞在しサーニットの取り扱いや基本を習得しました。

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Q2:ご自身のお作品の特徴はどういった点でしょうか。

(制作にあたって重きを置かれている点、こだわりなど)

A: サーニット粘土の特徴は蝋人形のような肌の透明感や自然な皺、細かいデティール等です。焼く前はとても軟かな粘土なので生き生きとした表情作りも可能で、そこが他の粘土と異なる特徴です。

私はふとした動きから、かいま見える生き生きとした顔の表情や手の動きなどの表現に重きをおいてつくっています。
とくに目線にはとても神経を使います。

他の粘土などの不透明な素材は出来上がった後に大変苦心して肌色を着色なさっているようです。彩色を重ねると顔、とくに瞼などのデテイールが厚ぼったくなりやすいです。その点、サーニットは粘土は粘土自体が肌色なので全体的な着色は必要ありません。このため瞼や微妙な皺などの繊細な表現が損なわれることがありません。

焼いた後に粘土自体に透明感が出るので、それを損なわないように頬などの赤味は透明絵の具を使用しています。
こうして出来上がった作品は皮膚の透明感のおかげで写真に撮ると生き生きして見える抜群のフォトジェニック(写真写りが良い)な人形になります。映像作品にも向いているのではとも思います。

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Q3創作のテーマ、発想は、どういった点・状況から得られるのでしょうか。

A:映画(おもにテレビやビデオ画像)が観たとき一番発想を得る場合が多いと思います。

海外のCGキャラクター(クリーチャー)の出ている特撮CG映画や時代物映画のゴージャスな衣装や俳優の表情などを観ていると「この顔はサーニットに向いている〜〜創れそう〜〜」とアイデアが浮かぶことが多いです。

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Q4:創作スタイルは?(1体を短期集中で創る、複数体を同時進行で長期的に創る等、)

A:1体を短期集中で創ります。ただし小さな動物などは複数体を集中的に創ります。

サーニットの作り方はどちらかというと「飴細工」にちかいと思います。「飴細工」は温かいうちにあっという間に形つくり、冷えてしまうとカチカチになってしまいますね。
サーニットは体温で軟らかくなり軟らかいうちに盛り上げたりへこませたりして形づくっていく粘土です。一度手を離れると粘土が冷めて動かしにくくなるので私は一気に仕上げます。
また石塑粘土のように盛って乾かし削る作業がなく、ふくらみを押し上げて自然なカーブを創りオーブン(110〜130℃)で20〜40分くらいで焼き固めてしまうので画期的な速さで作ることが可能です。

またサーニットは全体的にやすりがけや彩色をしないのでつくりあげた粘土そのものの表面が反映されます。

焼く前の粘土は非常によごれが付きやすく、焼いた後も汚れがそのまま残ってしまうこともあるので、汚れが付かないうちに一気に早く仕上げなければなりません。(作家さんによっては焼いてからヤスリ掛けを思い切りしてしまう方もいるようですが、私はせっかく盛り上げて作ったふくらみやきめの細かい表面を台無しにしてしまうようで、やすり掛けはほとんどしません。)

持論ですが人間の顔の表情は手足特に手の表情と連動すると思っていますので、1体分のパーツの粘土部分は一気に創り上げるべきだと思っています。

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Q5:イメージを100%かためてから制作にかかる、60%くらいで作業を始める など

A:そっくり人形の場合は100%です。頭部はその人のあらゆる角度の写真やビデオをどんどん観て行くとなぜか自分の額の左上空間に3Dの頭部映像がポコっと浮かび上がります。その時点で頭の中で立体座標が解った状態なので、でそこからつくりはじめます。

0%のときもあります。

たまに動物の顔を作ろうとして、粘土いじっているうちにまったく違った構想が瞬間にひらめいて宇宙人の顔になってしまうことがあります。

前にも言ったように、もたもた触っていると汚れがどんどんついてしまう事と、手から離れて粘土が体温より冷たくなると思うようにうごいてくれなくなるので、作りながら考えるのはあまりこの粘土には向いていません。構想をしっかり練って一発勝負で創ります。

このように説明していると、人形がバンバンつくれそうなのですが、より良いクオリティーの人形を創るには頭の中で完璧に仕上げるまでの時間がかなりかかる(ものによっては10年以上頭の中であたためている)事と、つくりはじめると一気に寝ないで制作するので(3日寝ないでつくりその後1週間疲れてしまったり)、やればやるほど奥が深く、良い作品を創ろうとすればするほどなかなか作り始められないのが悩みです

大体の場合は早回しのビデオのような映像でその人形が頭の中でできてしまいます。そのアイデアは頭のフォルダに入っています。

実は変形性股関節症が4年前ぐらいからに急激にで悪化し両股関節に人口股関節置換手術を受けたため手術前後しばらくは歩くのも困難で長い間座っていることも苦痛だったので、人形創りもできない状態でした。
やっと最近になって、普通に歩けるようになり制作活動をゆっくりと再開しました。フォルダのアイデアを少しずつ実行に移していくのでこれからの作品に期待していただきたいと思っていま
す。



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 余  談   **********************************

*私が集中講座を薦めている理由

サーニット粘土は体温(手の暖かさ)で温かくなり、温かい状態のときにしか自由に動かすことができません。
他の人形作りの手法は、1回に2、3時間の教室で何か月かかけてじっくり作り上げることが多いようですが、サーニットは冷めてしまうと自由に造形しにくくなるため、いったん冷めた粘土を温めて作業にかかること自体効率が悪いです。また長時間焼いていない状態の粘土を触ることになるので汚れもつきやすくなってしまいます。
そのためなるべく1度に長い時間をかけてつくる方が効率も良く汚れないので、集中コースをお薦めしています。

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Q6:創作時、一番ワクワクされるのは、どのような工程ですか。

A:サーニットは軟らかい粘土なので焼くまでは、いったんつくった顔の表情をいろいろ変えることが可能です。

ほとんど完成に近づいた顔の微妙な表情を、少し瞼のカーブを変えたり目線を調整をしているときに、「これだ!」と思う表情ができたときは嬉しいです。(サーニットはグラスアイを入れたまま創りそのまま焼いてしまうので目線は焼く前に調整します。)

またその頭を焼くと、焼く前になかった皮膚の透明感が出てきます。

その頬やまくれた唇などに赤みを入れはじめるとびっくりするくらいに生き生きしてくる究極の時があります。
この時が一番ワクワクするときかもしれません。

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Q7:一番苦労なさる工程は、どのような部分でしょうか。

A:粘土の練りですね。

いかに良い状態の粘土を練り上げることかがまず重要です。仕上がりの肌の色やきめの細かさがここで大方決まり、微妙な表情づくりも良い粘土次第です。

そのためひたすら粘土を練り続けるのは、造形などの楽しみがないので苦労する工程だといえます。(作品を創る前に大体1日は粘土を練り倒して自分好みの粘土を作り上げることが必要になってきます。)

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固いサーニット粘土の件〜〜なぜ固い粘土が出回ったのか??

去年レンガのように硬いサーニットがしばらくの間でまわっていました。
「サーニットは軟らかい粘土じゃなかったのですか?腱鞘炎になりそう・・」カチカチの粘土を持ってこられる生徒さんが何人もいらっしゃいました。

これは一つには、2年ほど前に会社がドイツからベルギーに移転し粘土のブレンドが変わって以前ほど軟らかくなくなったこともあります。

この問題をアメリカ大手の樹脂粘土販売会社の社長に問い合わせたところ、去年2011年が米国911同時多発テロ10年目にあたり、プラスチック爆弾に似ているサーニットが各空港で長期留め置きになっていて、その時(9月の暑い時期)にカーゴ内の温度上昇のせいで粘土が硬くなってしまい、そういった粘土がクレームをつけにくい日本に出回ったらしい。ということでした。

こうしてカチカチになった粘土を持ち込む生徒さんが何人もいらしゃいましたが、カーゴ等その固くなった時のまわりの状態で、元通り生き返る粘土と、温度上昇のためすでに硬化してしまったものはもとに戻らない場合もありました。

**では、その頃出回った軟らかすぎる(ベタベタ、ネチネチの)粘土はなんだったのか??

固くなった粘土の苦情が殺到し、本社のほうで「では、これを混ぜて使ってください。」

と出回ったのが、「軟らかいサーニット粘土」で この粘土は家に届くころにはぺったんこにつぶれた状態になっていました。

これををたまたま初めてのサーニットとして購入してしまった不幸な方もいらっしゃって(初めてで硬すぎるのも不幸↓)
「ネチネチ指にくっついてしまい、どうやっても形にならない」という問い合わせが多くありました。

この粘土は「混ぜるため」につくられた特別なブレンドなので、これだけでは造形は難しいのでほかの粘土と混ぜる必要があります。
最近はようやく粘土状態が安定してきています。
以前私のところで講習を受けられた方には、今の粘土の取り扱いはまた変わってきているので、練り方(軟らかくする方法)、汚れの除き方、焼く温度などがちがうことをお知らせしたいと思います。是非講習を受けに来てください。

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Q8:使っている技術や工夫などはありますか。

A:この約20年工夫の連続でした。今のサーニットより以前のサーニットの方がずっと扱いづらく、指紋が付き放題で、すぐ表面が凸凹になったり形が崩れたりでさんざんでした。

答えはなるべく指先で触らないでツールを駆使して創るということでした。温かい指先で無意識につついてしまう事によって困った凸凹ができてしまうのです。指先でつんつんと触らなければ、指紋もつきにくいことはたしかです。

そのため歯科用ツール等を部分により細かく使い分けて造形しています。

教室でも、生徒さんには手のどの部分で造形をするのか?そのためにはどう手を洗うか?どのツールをどのように使うか等細かく指導しています。作家さんによってはベビーパウダーを使うとかやすりがけをたくさんする方もいらっしゃいますが、ベビーパウダーは使ったことがありません。それにめったにやすりがけもしません。

またオーブンの温度やオーブン内の設置の仕方なども工夫が必要です。

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Q9:創作活動をされる中、信条とされているようなことはありますか。

A:欧米ではメジャーなサーニットは日本ではいまだに新しい素材で、長い間見向きもされていませんでした。

やっと最近ネットなどでねんども購入しやすくなりました。元々はアクセサリーなどの小物づくり用から始まった粘土なのでチョコチョコと小さな人形を作っては安価でネット販売されている方もいらっしゃいます。それが悪いとは言えませんが、最近あまりにもサーニット人形が安っぽく扱われていることがあるのが悲しいです。

日本ではビスクドール、球体関節人形、布人形というジャンルはありますが、サーニット人形のジャンルはまだまだ確立されていないので、もっとレベルの高い作家さんがたくさん育ってほしいと思いますし、今まで培ってきた裏技などは生徒さんにどんどん教えています。サーニット人形を創る人もふえてもっと裾野を広げていかなくてはいけないとおもいます。
また私自身も、よりクオリティーの高い作品を創らなくてはと思っています。

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Q10:展覧会などお作品発表の場については、どのようなお気持ちで臨まれますか。また、見る側の方にはどのように見てもらいたいとお考えですか。

A:ともかく多くの人にサーニット人形を実際に観ていただき、興味をもっていただきたいです。
そして一人でもつくってみたいと思っていただける方が増えたら幸いです。

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Q11:今後、どのような作品(題材)を創りたいとお考えですか。構想中のものはありますか。(2013年2月時点)

A:2013年4月にアメリカ最大のドールショーIDEX(アイデックス、フロリダ州オーランド)に個人ブースを出します。サンタクロース、福松的なリアルな市松人形、楽器を演奏するピエロ等のコレクターアイテムを持っていく予定です。





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